よくある質問です。
補聴器は管理医療機器のクラスⅡに分類され、販売者はあらかじめ営業所を都道府県知事に届出なければなりません。
通販やインターネットなどで販売されている安価なものは集音器で、補聴器とは似て非なるものです。管理医療機器ではなく単なる電化製品です。集音器は区役所や役場に置かれているような3本セットの老眼鏡みたいなもので、その人に合わせた細かい調整は出来ません。メリットは安価であることだけです。
さて、補聴器を購入できる代表的な所は、①病院やクリニック、②補聴器専門店、③眼鏡屋、④家電量販店などがあります。
病院やクリニック自体が補聴器を販売しているのはレアで、基本的に院内に補聴器業者が出入りしています。理由として、補聴器は販売だけでなく修理や部品等の在庫管理もしなくてはならず、医療と両立するのは大変なのです。
さて、主題の補聴器はどこで買えばいいのでしょうか。
以下、私の考える回答です。
1位 補聴器適合検査が実施できる病院またはクリニック
補聴器適合検査とは、その名の通り補聴器が患者さんに適合しているかどうかを調べる検査です。
簡単に説明すると、
①補聴器を付けた状態で校正されたスピーカーから音を聞く(音場検査)
②補聴器が正しく音を増幅しているか専用機器(特性器)で確認する(特性検査)
という検査になります。
補聴器をパソコンに繋いで見ている特性図はあくまで設定上のものですので、実際に補聴器から出力されている音(耳に入ってくる音)と異なります。
補聴器適合検査を実施するには以下の施設基準を満たす必要があります。
補聴器適合検査に関する所定の研修を修了した耳鼻咽喉科を担当する常勤医師 (非常勤医師の組み合わせでも可) |
検査を行うために必要な以下の装置・器具 ①音場での補聴器装着実耳検査に必要な機器並びに装置 ②騒音・環境音・雑音などの検査用音源又は発生装置 ③補聴器周波数特性測定装置 |
正確に検査をするには、これに加え周囲の環境音に配慮した広い検査室(できれば防音室)が必要になりますが、項目に書かれていません。施設基準を審査するのは現場の人間ではなく、あくまでも行政(役人)ですので、書類で審査されます。そのため基準をクリアした施設でも検査のクオリティに差があるのは事実です。
ただ、補聴器適合判定医の講習を修了し、施設基準を通すためにわざわざ高い医療機器(安価な機器もありますが…)を揃えているため、補聴器診療へ一定の情熱を持っているはずです。補聴器適合検査を行っているかどうかは補聴器の購入場所を選ぶ一つの基準にして良いと考えます。そこで補聴器適合に関する診療情報提供書(2018)を書いて貰い、認定補聴器技能士から補聴器を購入すれば、費用は医療費控除の対象となります。(情報提供書は補聴器相談医が書く必要がありますが、補聴器適合判定医は補聴器相談医の上位互換で、申請さえすれば補聴器相談医になれます)
また、補聴器装用前に耳に病気がないか、補聴器装用中にトラブルが起こってないか医師に確認することは必須です。病院ですと、補聴器を購入・定期点検・清掃するタイミングで医師が診察を行えるのもメリットです。
問題点としては、補聴器適合判定施設が少ないことです。医師は補聴器適合判定医ですが、施設は補聴器適合判定施設ではないパターンが多く、この場合は効果測定などが行えず、評価が不十分になります。「補聴器適合判定医」は耳鼻科医であれば数日間の研修を受ければ誰でもなれます。更新もありません。名ばかり判定医も多く、大事なのは妥協のない補聴器診療をやり続けているかどうかです。
2位 認定補聴器専門店
認定補聴器専門店とはテクノエイド協会の一定の基準をクリアした施設です。基準の大事な部分を抜粋します。
一 人的要件 当該店舗に認定補聴器技能者が常勤していること。 |
二 物的要件 十分な性能を有する次の設備・器具を整備していること。 ア. 補聴器調整のための測定ができる設備、施設 イ. 補聴器特性測定設備 ウ. 補聴器装用効果測定のための設備 エ. 補聴器修理等のための設備・器具 オ. 補修・修正のための補聴器用加工設備・器具 カ. 器具の消毒のための設備 |
認定補聴器技能者とはテクノエイド協会の一定の基準以上の知識や技能を持ったいわば補聴器販売のプロです。正直、補聴器に関してはその辺の一般耳鼻咽喉科医より知識は豊富です。
物的要件は補聴器適合検査施設基準に似ていますね。
つまり、ちゃんとした人が、ちゃんとした施設で、ちゃんと検査をして補聴器を販売していますよ。ということです。
ここでの注意点は、あくまで認定補聴器技能者と認定補聴器専門店のセットが重要です。販売店によっては認定補聴器技能士はいるが認定補聴器専門店ではないこともあります。認定補聴器技能士に加え認定補聴器専門店であることも確認しましょう。以下の公益財団法人テクノエイド協会の公式サイトで確認できます。
認定補聴器技能士が薬局や公民館などに出張販売しているケースが見受けられます。特性器や効果測定装置を持参し、しっかり検査をしていればよいのですが、機器を持参しているケースは稀で正しい評価が出来ていないことがあるので注意が必要です。ただ、運転免許返納などで販売店まで行くことが出来ない顧客のために善意で出張販売している場合もあるので、そこまで求めるのは酷かもしれません。
3位 クリニック
多くのクリニックでは補聴器外来と称し、医院に出入りしている補聴器業者に補聴器希望の患者さんを紹介しています。医師の専門にもよりますが、診察がありますので事前に耳の病気の有無が分かり、購入後も何かあれば医師に相談することが出来ます。
また、補聴器相談医であれば最低限の補聴器の知識を有しておりますので、補聴器購入前後に医師に何かしら相談ができます。補聴器適合に関する診療情報提供書(2018)を書けますので、認定補聴器技能士から補聴器を購入すれば、費用は医療費控除の対象となります。
しかし、問題点もあります。
多くの場合、補聴器業者へ丸投げになっている現状があります。特に混雑しているクリニックに多い印象があります。丸投げになってしまう理由は、補聴器適合判定施設ではないクリニックで行う補聴器診療は慈善事業としての側面があるからです。患者さんに難聴を正しく理解してもらい補聴器を継続的に使用してもらうには、それなりの説明時間と労力が必要です。対価もほとんどありません。混んでいるクリニックですと、その時間と労力を他の患者さんのために使った方が多くの患者さんを診療でき、経営的にもいい訳です。補聴器外来を縮小・終了しているクリニックもあり、コロナ渦でより顕著になっているかもしれません。ちなみに米国にはオーディオロジスト(Audiologist)という難聴の診断・治療、補聴器の調整、聴覚リハビリを行う資格があります。補聴器診療(聴覚診療)は命に関わらない緊急性の低いものに分類されてしまうため、オーディオロジストは2021年に米国で最も職を失った職業の1つと報道されております。
コロナ後も「二度と戻ってこない」職業とは?(Forbes Japan)
原文) These 20 jobs will be most at risk in 2021 (Glassdoor)
そして、一般のクリニックでは補聴器特性測定や装用効果測定が行えないため、補聴器が効果的に使えているかどうか評価ができません。前述しましたが、妥協のない正しい評価をするためには、専用機器と環境音に配慮した特殊な検査室が必要です。専用機器は何とか買えますが、環境は初めから設計しておかないと後から変更を加えるのはなかなか大変です。もし、クリニックに出入りしている補聴器業者が認定補聴器専門店の方であれば、一度お店に行って特性測定や効果測定を行ってみるのもいいかもしれません。
最後に。補聴器業者が医師に気を遣って補聴器を正しくフィッティングできない事もあります(医師の的外れな指示や精度の低い聴力検査結果などを、なかなか指摘することができないため)。医師と補聴器業者が対等な関係で、意思疎通が良好であることが望ましいですね。
以上が一定の水準で補聴器を購入できる場所と考えます。
眼鏡屋や家電量販店でも、認定補聴器専門店で認定補聴器技能士がいることがあります。
購入する前に必ず確認しましょう。
購入時に「今なら値引きしますよ」など言われたら要注意です。
次回、どんな補聴器を買えばいい?