耳科手術の開始について

 2022年10月に開院してから、短時間で終了する鼓膜再生術・鼓膜形成術は施行しておりました。真珠腫性中耳炎などの患者さんが来院された場合は、器材の関係から院長の非常勤先である東京女子医大足立医療センターへ紹介し、そこで手術をし術後は当院で見るという形でした。
 徐々に器材の準備をし、来年あたりから大きな手術が出来るような体制を整える予定でしたが、当院に来院する真珠腫性中耳炎の患者さんが多いため、早めに器材購入を決めました。

新しい器材とは?

 新しい機械は医療用ドリルです。購入したものはBien Air®というスイスのメーカーのもので、歯科用ドリルなど製造しております。

 耳(中耳)は側頭骨の中にある組織です。中耳の病変を操作するには、側頭骨をドリルで削らなければならず、現在の耳の手術にはドリルは欠かせません。

麻酔はどうするんですか?

 手術は全例局所麻酔で行います。

局所麻酔下の耳科手術には以下のようなメリットがあります。

  1. 身体に対する安全性が高い
  2. 術後に問題がなければすぐに帰れる
  3. きこえ具合を手術中に調整できる

 心臓や肺に病気がある方は、人工呼吸器や麻酔薬剤等で心肺に負担がかかるため全身麻酔ができません。全身麻酔が出来たとしても大きな病院でハイリスク症例としての手術となります。数日間の入院は必須です。局所麻酔の場合は、意識のある状態(いつも状態)で手術を行うため、全身麻酔のような負担はかかりませんし、術後に問題がなければ帰宅可能です。
 また、局所麻酔手術の一番のメリットはきこえ具合を手術中に調整できることにあります。例えばA法、B法、C法という手術方法があるとします。全身麻酔で手術を行う場合、A法という手術方法を選択し手術に臨むとするならば、それがどのような結果を生むかは、手術が終了して数ヶ月経過しないとわかりません。そのため、ある程度日数が経過し聴力が改善していない事がわかると、別な選択肢であるB法やC法での再手術を行うといった経過をたどる事があります。ですが、局所麻酔下に意識がはっきりとしている中で手術を行うと、全ての手術方法を、患者さんの実際の聞こえ具合を確認しながら試す事が出来ます。つまり、局所麻酔下での治療は、一度の手術でより良い聴力を手に入れる事が可能となるのです。

局所麻酔・日帰りで大丈夫なんですか?

 院長の以前の勤務先では、耳科手術の9割は局所麻酔下手術でした。特に、鼓室形成術・乳突削開術で全身麻酔を選択する症例は小児のような自制が効かない症例や本人の希望であることがほとんどでした。局所麻酔でも全身麻酔でも手術のクオリティは変わりません。前述したように局所麻酔の方が身体に対する安全性が高く、時間的拘束が少なく経済的な負担も少ないです。
 局所麻酔下手術は前述したように術後に問題がなければ日帰りが可能ですが、当院は入院施設のある病院とは異なるため、もしもの事を考え、全ての症例が日帰り手術が出来る訳ではありません。院長が日帰り可能だと判断すれば日帰り手術が可能です。4月に既に1例施行しましたが、何の問題なく日帰り出来ております。

院長はパネリストとして発表した実績もあります

「耳科領域における外来手術の適応と限界 東京女子医科大学東医療センターの耳科手術の現状と日帰り手術について」

貞安 令、須納瀬 弘

第29回 日本耳科学会 総会・学術講演会(2019/10/12)

 注意して欲しいのが、局所麻酔だからといって手術が簡単な訳ではありません。執刀する医師にとってはハードルの高いカテゴリーです。短時間で、全身麻酔で行う手術と同じ効果を得なければなりませんし、手術そのものの管理能力も高いレベルで要求されます。
 院長は開院するまでの間に、耳科手術に対し多くの経験を積み、技術と診断力を磨いてきました。海外への研修会も数多く出席し研鑽してきました。その技術をこの地に還元できるように頑張ります。

スタッフでの模擬手術風景
若い頃、海外でトレーニング風景(イタリア)

手術について

 手術のクオリティを最大限に高く保てるように、手術症例によっては前勤務先の上司で、私を研修医の頃から教育して下さり、私の中耳手術の最大最高の師匠である須納瀬 弘教授(現東京女子医大足立医療センター)に相談・招聘し手術を行います。
 手術はそれが大きいものであれ、小さいものであれ手術を受ける人にとっては人生の一大イベントです。当院で手術を行う場合は、いつでも最高の手術を提供できるように心がけております。

手術室の天井は木目調でリラックス効果があります

言語聴覚士の入職

 開業半年で補聴器を導入した患者さんが50人を超えており、診療が滞る日が出てきました。今年1年で100人を超える可能性が高く言語聴覚士の採用が喫緊の課題で、兼ねてから募集を行っていましたが念願の言語聴覚士が入職致しました。

言語聴覚士ってどんな仕事?

 言語聴覚士は話す、聞く、食べるのスペシャリストです。具体的に言語障害聴覚障害嚥下障害を扱います。言語聴覚士の多くは病院に勤務し脳梗塞後などの言語障害や嚥下障害のリハビリ分野を専門としています。その次に小児の言語・発達分野で、最も少ないのが聴覚障害分野となっております。
 聴覚障害を専門とする言語聴覚士は数少なく、需要も供給も少ない状態です。色んな方から聴覚障害専門の言語聴覚士の紹介を提案して頂きましたが、私はどうしても地元の言語聴覚士を採用したく、辛抱強く待っておりましたが、今回ご縁があり入職が決まりました。

これからの聴覚診療の予定

 言語聴覚士が入職したことから、聴覚分野の専門性を増強することができます。数年単位の経過になると思いますが、当院の予定を明示したいと思います。

  1. 人工内耳の調整(成人中途失聴のみ)

    現在、東海村近辺の人工内耳装用中の患者さんは調整(マッピング)のために都内へ通っているようです。成人の中途失調の患者さんは高齢者が多く移動が大変です。当院でマッピングができる環境になればそのような患者さんが非常に助かるのではないかと考えております。

  2. 小児の難聴精査

    言語聴覚士の入職により可能となりました。器材が整い次第、導入していく予定です。
    (当院で行うのは難聴精査までで、療育は行いません)

  3. 脳波検査の導入予定

    聴性定常反応検査(ASSR)を導入すれば、当院でほぼ全ての聴覚検査が可能となります。

 今後も地域を代表とする聴覚・耳科の施設となれるように精進していきたいと思います!