朝は雉の鳴き声で目覚め、ウグイスのさえずりを聞き、桜を見ながら通勤します。

家の前に出没する雉(雄)

東海村は都内(23区)では考えられない春風駘蕩な日々が満喫できます。

さて、表題にも少し書きましたが、本年度に温泉療法医となりました。

今回は温泉療法、温泉療法医、温泉の紹介をします。

温泉療法とは

温泉療法は「温泉に入り温まる」、これがメインではありますが、それに付随して自然環境を利用した気候療法、地形療法、森林浴なども取り入れることがあります。

温泉療法の医学的作用は大きく①物理作用、②化学作用、③生物作用に分類されます。

①物理作用(温熱作用、水圧作用、浮力作用、粘性作用)

物理作用には温熱作用、水圧作用、浮力作用、粘性作用があります。

温熱作用は最も分かりやすい作用です。体を温めることで全身の血管が拡張し、筋肉がほぐれやすくなります。全身の血管が拡張することにより、血液が体の隅々にまで行きわたり血液中の酸素濃度が上がります。実際に、どす黒い静脈血も鮮紅色に変化します。筋肉を温めることで、筋肉内のコラーゲン線維が柔軟化し筋肉や関節が伸びやすくなります。風呂上りにストレッチをするとよく伸びる理由です。

水圧作用は文字通り湯船に浸かったときの水圧による作用です。通常の入浴だと水圧はあまり気にしませんが、水圧は意外に強いものです。静水圧(静止した水の重さによって生じる圧力)として、水深10cmで1cmあたり約10gの重さと同じ力がかかります。単純計算で理論上の数値ではありますが水深50cmで体表面積1.2㎡とすると、水圧は約600㎏になります。水圧で手足などの末梢血管が圧迫され心臓に帰る血液が増大します(静脈還流量増大)。また、胸部や腹部を圧迫することで、呼吸を助ける働きがあります(横隔膜挙上、肺胞の死腔減少による換気効率改善)。

上記、二つの作用は心臓血管系に負担をかけるため、高齢者や心臓病などの循環器疾患を持っている方は41℃くらいの浴温で半身浴とし時間は10分以下が良いです。入浴後の水分摂取は忘れずに。

浮力作用は、体の浮力により足や腰などの負担が減り、足腰の弱った方や麻痺がある方でも立位・歩行動作が容易になります。

粘性効果は、水中運動時の水による粘性抵抗を指します。水中歩行は水の粘性抵抗が運動負荷となります。粘性抵抗のため転倒しにくく、高齢者や麻痺のある方、リウマチの方などに適しています。

 これら二つはプールでも同様の効果が得られるため、通常歩行で転倒が心配な方はプールでの水中ウォーキングをお勧めします。

②化学作用

これが温泉の醍醐味です。温泉水に含まれる種々の塩類やガス成分が温泉独特の湯ざわりや匂い、色を与え、身体に作用します。

硫酸アルミニウム(ミョウバン泉)、塩化ナトリウム(食塩泉)は皮膚表面に被膜をつくり放熱を抑え湯冷めを防ぎます。都内の温泉や海に近い温泉は食塩泉が多いです。

重炭酸ナトリウム(重曹泉)はアルカリ性であるため蛋白、皮脂を溶かし肌をきれいにします。美人の湯とも言われます。重曹風呂は家庭でも簡単にできます。

強酸性泉は皮膚表面の殺菌作用があり成人型アトピー性皮膚炎に効果があります。有名なのは湯畑のある草津温泉です。

硫黄泉、炭酸ガス泉は皮膚を通って表皮血管を拡張させます。硫黄泉は独特の匂いがあり山あいの温泉に多いです。炭酸ガス泉は大分県の長湯温泉が有名です。ラムネ温泉と呼称しているところもあります。

大分県竹田市にある「ラムネ温泉
肌に泡がつきます、ぬるめですが炭酸効果でポカポカになります

飲泉の作用も主に化学作用によるものです。ヨーロッパでは温泉療法といえば入浴より飲泉の方がイメージが強いようです。主に胃腸症状に効くことが知られています。日本三大胃腸病の名湯として四万温泉(群馬)湯平温泉(大分)峩々温泉(宮城)があります。

飲泉は必ず飲水許可があることを確認して下さい。飲泉は環境省の基準をクリアしないとできません。

宮城県にある「峩々温泉
みやぎ蔵王山麓の川沿いにある1軒の温泉宿です

③生物学的効果

総合的生体調節作用ともいわれ、日常生活から離れて山間や渓谷、高地、海浜等にある温泉に滞在すると、心身がリラックスされます。温泉地の物理的・化学的な刺激、運動、情動などが総合的に自律神経機能や内分泌機能を適正化し、精神的リラックスにより体調を整えます。

長野県にある「白馬鑓温泉
登山する必要がありますが絶景です
非日常が存分に味わえます

以上3点が温泉療養における主な医学的作用とされています。

個人的にはもう一つ追加したい点があります。

それは温泉の還元作用です。還元作用のある温泉は限られた地域にしかありません。

温泉は地中の水がマグマで温められ、様々な成分を溶解しながら地表に湧出して出来ます。地表に出た時点で酸化が始まり還元作用が徐々に弱くなっていきます。還元作用を堪能できる温泉の条件は、源泉温度が熱すぎない(加水なし)、冷たすぎない(加温なし)、湧出量が多く(循環ろ過でない、かけ流しである)、不純物を入れていない(塩素消毒等していない)ことが必須です。ポンプなどによる動力揚湯でなく自然湧出であればなお良いです。理由は自然湧出は湧出する直前まで空気に触れず、かつ攪拌されないからです。

還元作用のある温泉は自ら探して赴かなければ堪能できません。紹介してもいいのですが、興味のある方は是非ご自身で探してみてください。

温泉療法医とは

温泉療法医は温泉療法を指導する医師で温泉気候物理学会が認定します。温泉療法医の上位資格として温泉療法専門医があります。

温泉気候物理学会は歴史が深く、設立はなんと昭和10年(1935年)です。戦前からあったようです。昭和51年に温泉療法医制度が設けられました。

具体的に何をするのかというと安全な入浴方法や温泉療養の指導、実践を行います。また、温泉利用型健康増進施設を利用する場合は温泉療養指示書を書きます。温泉治療のために当該施設を利用する場合は医療費控除の対象となります。

温泉利用型健康増進施設は温泉利用を中心とした健康増進プログラムを提供している施設になります。残念ながら茨城県にはありません。直近の場所としては福島県いわき市に1施設あります。茨城県には平野が多いため温泉が少なく、温泉病院も1施設しかありません。

温泉療養は決して万能ではありませんが、確かな効果があります。
昔から行われている「湯治」は先人たちの心身癒しの知恵です。湯治は温泉治療目的に温泉地で自炊にて長期滞在します。食生活、運動習慣を見直し、ストレス解消をすることで生活習慣病やストレス性疾患の予防に期待できます。

環境省も「新・湯治推進プラン」として温泉地の活性化を促しています。

温泉療法医として安全な入浴方法の指導だけではなく、温泉治療や湯治の啓蒙で生活習慣病やストレス性疾患を予防し、温泉地の有効活用と活性化を推進していきます。

温泉の紹介

温泉記事の初回、ということでもあり茨城県内の温泉を紹介致します。

今回紹介するのは茨城県北、北茨城市にある五浦温泉です。

五浦温泉は景勝地である五浦海岸を望む場所にあります。五浦海岸は岡倉天心ゆかりの六角堂が有名です。関東の松島とも呼ばれています。

五浦海岸と六角堂

五浦温泉は五浦温泉観光ホテルで入湯可能です。

泉質(公開情報)

 ナトリウム・カルシウム-塩化物泉

 pH 8.04

 泉温 本館76℃ 別館71℃

 湧出量 280L/min (動力揚湯)

 鉱物油臭あり

 飲泉不可

*詳細は現地で要確認

本館は日本庭園を彷彿とさせる景観で夜の露天風呂は幻想的です。

別館は六角堂が展望でき、日の出も眺められます。露天風呂は海に面しており、夜は波の音を聞きながら、朝は太平洋を眺めながら入浴できます。家族風呂あり子連れOKです。

茨城県内の数少ないかけ流し温泉です。
海を見ながら周囲を散策するのも良し、少し足を延ばして小名浜に行くのもありです。

近くに風船爆弾放球台跡など戦争関連遺跡などの散策スポットもあり、まずは周囲の散策をお勧めします。

温泉関連の記事も定期的に更新していきたいと思います。

参考文献
新入浴・温泉療養マニュアル